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■近代文藝之研究|時評|新舊演劇の前途(3)

■近代文藝之研究|時評|新舊演劇の前途 (3)

支那の芝居乃至西洋で折々やる未開人の芝居といふものに比して、我が舊劇の此の部分は正しく兄弟分といふ系統に居る、多少の彫琢はあるが結局はグロテスクの趣味に歸一する。さうすると此誇大的元素を舊劇から除けば、あとは舞踊的元素と自然的元素とのニとなる、舞踊的元素は即ち振事で、今度の東京座の道成寺の如き歌舞伎座の勢獅子の如きがそれで、或點を例外とすれば立派な一種の藝として長く生命を保ちうるものであることは爭はれぬ。丁度ワグナーオペラが幾十年後の今日なほ歐洲で流行の絶頂に立つてゐるのと同じことだ、それは時代に應じ多少の變化はあるかも知れんが、此風の藝は誇大的元素とは違つて人情自然の發表といふことに逆らつて成立したものでないから、文明の變化と共に亡ぶべきものでない、つまり音樂の力、舞踏の力を結合した純なる藝術で、之を文學に比べて見ると詩《ポエトリー》に相當する、或は詩が時代と共に亡んで詩形がなくなると論ずるものもあれど、それは大なる誤謬である、在來の詩の形は亡びても詩そのものゝ形の根本は人間の本性から發するのだから舊、亡べば新が代るといふ風に中々亡びやうはない、詩と詩ならぬ文學との境目は感情の濃厚の度合で分つ、詩が濃厚な感情といふ本性を有する限は其形は必ず節奏的《リズミカル》でなければならぬ、人間の感情が濃厚になれば必ず表情は節奏的《リズミカル》であるのが自然である、激して物言ふ時には其言語におのづからに節がつき、激して動く時には其動作がおのづ舞踊的となるは其證據である。



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*註1:部分・兄弟分
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg

*註2:彫琢
「彫」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tyou_horu.jpg

*註3:道成寺
「道」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註4:絶頂
「絶」の正字体。旁の「色」が「刀」+「巴」。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zetsu.jpg

*註5:人情・感情
「情」の正字体。「月」は「円」。

*註6:逆らつて
「逆」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註7:文明・文學
「文」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bun_aya.jpg

*註8:音樂
「音」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ne_oto.jpg

*註9:誤謬
「誤」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/go.jpg

*註10:亡べば
原本には「亡へば」とあるが誤植と思われるので改めた。

*註11:境目
「境」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_sakai.jpg

*註12:節奏的《リズミカル》・節がつき
「節」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/setsu_hushi.jpg

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1

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2012/07/22 17:21
リズム感ないです 



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