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■近代文藝之研究|時評|新舊演劇の前途(4)

■近代文藝之研究|時評|新舊演劇の前途 (4)

同じく劇の舞踊的元素に於ても、セリフ[#「セリフ」に傍点]に於いて音樂的、シグサ[#「シグサ」に傍点]に於て舞踊的となるのは是れまた一種の自然の事實に合したものである、而して此「音樂的舞踊的なるはやがて自然的なるなり」といふことが即ち永久的なる所以である、舞踊的演藝と詩とは、同じ生命を有してゐる、これが又舊劇の重な一元素であるから舊劇は此部面で永久の生命に觸れてゐるではないか、斯やうに見れば、また永久なるべきものは常に自然的ならざるべからずともいへる。
併し舞踊的元素といつても現在のものには第一脚本の上にも到底時代と歩を同じうすることの出來ない分子もある、そこは例外として見らるべきである。また之れを藝の方から見ても色の使ひ方、手足の振、衣裳の恰好などいふ外形的のものは時代と共に變遷するかも知れぬ。又音樂も日本音樂が其メロデイーまでも洋樂に悉く了るかどうかは疑問であらうが、少なくとも其の樂器、音の性質等の上には必ず洋樂の感化によつて多少の變化が起こるであらう、從つて、撥音の盛んな、斷音を中心とした三絃樂の如きものゝみでは新時代の賞美に價することはむづかしくなるであらう、かゝる外形的の方面では、舞踊的元素も變形して行かうが、其の根本の藝風は同じ脈に屬して存續するであらう。又脚本の上からいへば前述の如き「勢獅子」「道成寺」一流のものは只見た目、きいた耳に訴へる而巳である。いくら舞踊式でもそれ以上に考へた心といふものゝ興味を將來のものには必ず導き入れねばならぬ、是れが新時代文藝の根本の意味でなければならぬ、とにかくか樣な意味で大體に道成寺式藝術が舊劇中から趣味の變遷といふ實驗化學のガラス筒の内に分解せられて殘留し行くかと思はれる、即ち今日の振事風の藝術がより深い工夫を加へられたならば、永久の生命を有するであらう坪内氏の所謂新樂劇なども此方面から新藝術を導き來らんと企てられたのであらうと思れる。



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*註1:同じく劇の舞踊的
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。

*註2:音樂的・音の性質・撥音・斷音
「音」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ne_oto.jpg

*註3:所以
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註4:これが又・又音樂も・又脚本の
「又」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mata.jpg
「音」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ne_oto.jpg

*註5:分子・分解
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg

*註6:變遷
「遷」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sen_utsusu.jpg

*註7:樂器
「器」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ki_utsuwa.jpg

*註8:起こる
「起」の正字体。旁の「己」が「巳」。

*註9:前述
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg
「述」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/jyutsu.jpg

*註10:道成寺
「道」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註11:導き
「導」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註12:文藝
「文」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bun_aya.jpg

*註13:内に
「内」の旧字体。「冂(=エンガマエ)」+「入」。

*註14:坪内氏
「坪」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hei_tsubo.jpg
「内」の旧字体。「冂(=エンガマエ)」+「入」。
※補註……「新樂劇」は坪内逍遥・著の『新楽劇論』(1904年=明治37年)で提唱した新舞踊劇論。振事劇の欠点を除き、長唄などを基調に謡曲・義太夫節・一中節・清元等の特質を生かしつつ、洋楽なども加えて新楽劇を作るべきであるとした。その実践作として『新曲浦島』を同年に発表している(未完)。

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1

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2012/07/28 21:49
ずーと残る演劇も凄い



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