■近代文藝之研究|時評|新舊演劇の前途(8)
- カテゴリ:その他
- 2012/08/18 13:35:03
■近代文藝之研究|時評|新舊演劇の前途 (8)
又脚本について云つても舊劇は隨分ある處/\には立派なものあり、ことに日本民族の一特色とみらるゝ武士道的精神に訴へた作は、此一脉を傳へた點に於いて將來とも折々古劇として演ぜらるゝことがあらう。また更にその上に武士道のみならぬ廣い意味での自然の感情の流が加つたものは一層うつくしい古藝として今後五十年百年までも折々演ぜらるゝであらう。忠臣藏の如き、その一例である。さらば將來舊劇の生命たる史劇は如何なる傾向を生じ來たるであらうか、新作も出來るのであらうと思ふが、もし新代の要求に應ずる史劇が現れたとせば、それは如何なる特色があるかといふに、思考《シンキング》に訴へるといふ點からして其の材料が撰ばれねばなるまい。(之は中身をいふのだからその上に甘い美しい情の衣がシックリと纏ひつけられねばそも/\藝術にならないことは言ふまでもない。)舞臺的專門的にも變化は加はらうが中心の見方は見物をば考へさすといふことに歸するであらう、其材は例へば我等の祖先から流てゐる血が是認する武士道的精神の外に、むしろ、われ/\が當然第二位に落すべきものと信じてゐたものの中から深い意味をば西洋文明に觸れて心づいて來る、此の矛盾から起こる煩悶疑惑乃至新しい解決を材料にとり入れるといふ風でなくてはなるまい、これが十九世紀式廿世紀式の文藝で、史劇も同じ運命に逢ふを免れまい。
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*註1:又脚本について
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
「又」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mata.jpg
*註2:隨分
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg
*註3:ある處/\・そも/\・われ/\
「/\」は踊り字・くの字点。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/odoriji.jpg
*註5:武士道
「道」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註6:精神
「精」の正字体。旁の「青」の「月」は「円」。
「神」の旧字体。扁の「ネ」が「示」。
*註7:更に
「更」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sara.jpg
*註8:感情・情の衣
「情」の正字体。「月」は「円」。
*註9:一層
「層」の旧字体。「曽」が「曾」。
*註10:史劇
「史」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shi_humi.jpg
*註11:要求
「要」の俗字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/you.jpg
*註12:祖先
「祖」の旧字体。「示」+「且」。
*註13:是認
「認」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mitomeru.jpg
*註14:文明・文藝
「文」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bun_aya.jpg
*註15:起こる
「起」の正字体。旁の「己」が「巳」。
*註16:世紀
「紀」の俗字(か?)。「糸」+「已」。
*註17:運命
「運」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註18:逢ふ
「逢」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註19:免れまい
「免」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/men_manukareru.jpg
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http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1
伊丹監督の吉良好きなんで悪役