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■近代文藝之研究|時評|新舊演劇の前途(11)

■近代文藝之研究|時評|新舊演劇の前途 (11)

これらの點から云つて、所謂芝居の將來はドーモ一旦今の新劇にでも立還り再び新に出立したものでなければ我等が望める新演劇は完成しないのではないか。若し新史劇を作る人あらば舊俳優にやらせるよりも新俳優にやらして見た方が面白からう、また藤澤氏なり高田氏なり河合氏なり喜多村氏なり皆進んで史劇もやつて自らの日蓮や熊谷や由良之助を作り出さねば駄目だ。舊俳優と目をむき顏を曲めるやうなことで競爭せず、標準を感情の自然の表情に取り、誇大主義をやぶり、新時代に適する新脚本を用ひ、一方に固まつて仕舞はず益々つとめたならば、或は成功し得ると思ふ、新俳優が舊劇的の脚本、即ち日本の史劇などに手を出さぬのは愚かなことである、今の歌舞伎式臭味を脱した新工夫でやらねば駄目である。之れを要するに舊劇の藝風から舞踊劇を成し、新劇の藝風から自然劇を成すとすれば、前者は目下の所やはり舊俳優の擅場であらうが、後者は寧ろ新俳優の前途に望をかけざるを得ぬ。(明治40年談話筆記)



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*註1:これらの點から云つて
原本には「これらの點から云て」とあるが、送りは前出箇所の用例に準じて改めた。

*註2:所謂・目下の所
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註3:立還り
「還」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註4:望める・望をかけざるを
「望」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bou.jpg

*註5:史劇
「史」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shi_humi.jpg

*註6:進んで
「進」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註7:日蓮
「蓮」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註8:感情・表情
「情」の正字体。「月」は「円」。

*註9:適する
「適」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註10:益々
「益」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/eki_masu.jpg

*註11:脱した
「脱」の旧字体。旁が「兌」。

*註12:要するに
「要」の俗字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/you.jpg

*註13:前者・後者・前途
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg
「途」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註14:筆記
「記」の俗字(か?)。旁が「己」ではなく「巳」。

*補註:
明治40年(1907年)談話のこの「新舊演劇の前途」は、まだ抱月が直接演劇にかかわる以前のものだが、既に並々ならぬ演劇への関心の高さがうかがえる。
参考までに補足すると、恩師の坪内逍遥と西洋並みの近代演劇を日本に起こし、実践しようとして設立した文芸協会は、この談話の2年後の明治42年(1907年)であり、その文芸協会第1回公演『ハムレット』(演出・逍遥)が帝国劇場で上演されたのが明治44年(1909年)5月、演出家としての抱月のデビューは文芸協会私演として同年9月『人形の家』となる。そしてこの『人形の家』が空前の評判を呼ぶことになるのだが、その評判の大きな要素の1つとして、的確な指摘をしている川村花菱(大正~昭和期の演劇脚本家・演出家)の評を記しておく。
「自分は日本に生まれた女優の口から初めて自然な台詞を聞く事が出来たと云ふ事を、深く/\喜ぶと同時に、無論松井すま子女史の苦心の結果ではあらうが、一つに島村先生や中村先生の監督の力にどの位ゐ与つて居るか分らないと思つた」(「私演場と『人形の家』」)
この談話で、誇大主義的な演劇ではなく目指すべきは、自然なセリフ、自然な表情、自然な動きの自然劇であると説いた抱月は、ただ高みから説くだけではなく、それを実践・指導し、実現化し、しかも大成功させたわけである。談話後わずか4年。文芸協会という演劇学校とも俳優養成所ともつかぬ組織を立ち上げてからだと、さらにわずか1年半ほどの期間で。



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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1

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2012/09/27 18:51
深いですね ドーモー



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