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■近代文藝之研究|時評|脚本をして先づ…(4)

■近代文藝之研究|時評|脚本をして先づ讀物たらしめよ (4)

斯う見て來れば、小説中の對話と脚本の臺詞との相違の如きは、抑も末である。要は自然といふ一語に没してしまふ。人物感想の自然に貼合する言葉でだにあれば、小説と脚本とに二つは無い。たゞそれが眞に自然であり、眞の人物感想と貼合するを要する。判別は此の點にのみ存する。對話と臺詞との差は、たゞ臺詞の一音一呼吸も不自然なるを許さぬに反して、對話は多少不自然の點があつても寛恕せられるといふ消極的の意味に過ぎぬ。一は緊張した自然で一は緊張を要せぬ自然である。理想的に言へば兩つながら毫髮の弛怠をも許さぬものであつて欲しい。而して吾人が今の新脚本の臺詞に不滿足を感ずるのは此の弛怠があるからである、所謂舞臺の約束に合はぬためでは無い。「是れではせりふが廻はされぬ」、と云ふ批評は、傳襲の型に合せぬが爲めといふことゝ、其人物感想の自然と合せぬが爲といふことゝ、兩意のうち必ず後者でなくてはならぬ、前者ならば罪は廻し得ぬ方にある。眞に其の人物感想と吻合する言葉でさへあれば、人物感想の意氣を十分に胸に溢らしてゐる優人には其の言葉がおのづから臺詞となりて生きて來る筈と思ふ。今の劇壇の一病は、舞臺上の約束といふことを自然から獨立して背行するものと考へるに存する。戯曲の法則は事實の後に生ずるといふイブセンの言は、此の場合にも眞理たるを失はない。



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*註1:小説
「説」の旧字体。旁は「兌」。

*註2:相違
「違」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註3:要は・要する・要せぬ
「要」の俗字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/you.jpg

*註4:没して
「没」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/botsu.jpg

*註5:判別
「判」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/han_wakaru.jpg

*註6:一音
「音」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ne_oto.jpg

*註7:消極的
「消」の旧字体。旁の「ナオガシラ」は「小」。

*註8:過ぎぬ
「過」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註9:所謂
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註10:後者・前者
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg

*註11:十分
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg

*註12:劇壇
「壇」の俗字体。旁の「旦」部分が「且」。

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1

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2012/10/12 20:45
4分の3行きましたかお疲れ様です

ゆっくり行きましょう



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