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■近代文藝之研究|時評|『青春』を評す(3)

■近代文藝之研究|時評|『青春』を評す (3)

或る意味で欽哉の弱點はなるほど時代の弱點で、而して作者が之れに痛快な一抉りを與へたといふ功はあらう。けれども之れと同時に作者は時代の犠牲者を描くといふ意識を一層強く持つて欲しかつた。つまり時代の弱點を描くといふことゝ、時代の犠牲者を描くといふ〓[#「こと」合略仮名]と、此のニ意識の配合がうまく取れなかつたのではないか。前者を描くに急にして後者は之れを逸した。作者の考では、周圍の同感者などを以て此の方面をも描くつもりであつたらう。併しそれは十分の成功でなかつた。思ふに斯かる時勢の斯かる境遇にあるものは斯かる性格に墮せざるを得ざるかと、人をして主人公の性格から直ちに一層深く廣い運命に頭を回らさしむるの用意が足りなかつたのであらう。言ひかへれば斯かる大舞臺の主人公としては、性格に深さが足りなかつた。
終りに臨んで、當代の最も複雜な思想の階段を代表的に描かんとした作者の勞を多とする。(明治四十年四月)



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*註1:或る意味で
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。

*註2:弱點
「弱」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/jyaku_yowai.jpg

*註3:作者・犠牲者・前者・後者・同感者
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg

*註4:一層
「層」の旧字体。「曽」が「曾」。

*註5:強く
「強」の俗字。旁が「口」+「虫」。

*註6:描くといふ〓[#「こと」合略仮名]


*註7:意識
「識」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shiki.jpg

*註8:急にして
「急」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyuu_isogu.jpg

*註9:逸した
「逸」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註10:周圍
「周」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/syuu_mawari.jpg

*註11:十分
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg

*註12:境遇
「境」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_sakai.jpg
「遇」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註13:主人公
「公」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kou_ooyake.jpg

*補註:
『青春』は小栗風葉(1875年=明治8年~1926年=大正15年)の小説。1905年(明治38年)~(1906年=明治39年)に読売新聞で連載され、「春之巻」1905年10月、「夏之巻」1906年1月、「秋之巻」同年11月、の3巻本として春陽堂より出版された。
内容は、男子大学生・関欽哉と女子大学生・小野繁との恋愛物語。主人公の関欽哉に当時の青年の典型像が描かれていると評判を呼んだ。

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1

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2013/03/23 20:28
う~ん深いですね



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