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■近代文藝之研究|時評|『其面影』を評す(1)

■近代文藝之研究|時評|『其面影』を評す (1)

    『其面影』を評す

『其面影』を讀むと觀察描寫の老錬といふことが誰れの眼にも先づつく。用語文章の如きも、金臺にいぶしを掛けたやうな苦心が時としてはなほ覺えず、知らず金光を露呈する趣味である。三十九章の「家と名が付きや埴生の小屋も」のあたりの文調、乃至さよと哲也とが愈々戀に入る邊の對話の引締められて殆んど脚本の臺詞に近づきかけた趣など、其の例であらう。
此の作と他の青年諸家の短篇物とを想ひ比べると、彼れには人生の一邊が鋭角をなして見はれ、此れには廣い多角な鈍角な人生が見はれてゐる。彼れには冷徹の氣があり、此れにはおつとりと圓みを帶びた氣持がある。彼れでは作家と作とが一杯々々で、知力過勞より來る所謂近代的憂愁の色が余地なく流れ出でゝゐるが、此れでは一段高い所ろから近代生活を瞰下せんとしてゐる氣味である。



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*註1:評す
「評」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hyou.jpg

*註2:
「錬」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ren_neru.jpg

*註3:文章
「文」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bun_aya.jpg

*註4:露呈
「呈」の旧字体。「口」+「壬」。

*註5:近づき・近代的
「近」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註6:青年
「青」の正字体。「月」は「円」。

*註7:諸家
「諸」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/syo_moro.jpg

*註8:鋭角
「鋭」の旧字体。旁は「兌」。

*註9:圓みを帶びた
原本には「圓みを帶ひた」とあるが誤植と思われるので改めた。

*註10:過勞
「過」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註11:所謂・高い所ろ
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg
「高い所ろ」の「ろ」は誤植と断じかねるので原本のままとした。

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1

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2013/03/26 17:08
其面影>妻の妹に恋し敗れるお話 有りそうで考えちゃいますね

明治39年の小説 資料館にありそう本の実物



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