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盗月Blog——島村抱月TextData——


■近代文藝之研究|講話|歐文學中の日本(4)

■近代文藝之研究|講話|歐文學中の日本 (4)

ワイルドな〓[#「宀」+「サンズイ」+「駸」の旁]もすれば野性を帶びた蠻的な、從て男らしいやうな人物行爲は、今少しくワイルドな蠻的な社會に一層起り易い。而して其ワイルドな蠻的な中にも人間の美といふものは見出される。現代の傾向は或る意味に於いて、餘りに紳士的な温和しい社會に現はれる人生の美に倦んで、寧ろ調子の荒つぽい社會に現はれる人生の美を味つて見んと欲して居る。言はゞ一種の反動的機運である。斯樣な意味からして印度の社會を材料に使つたり、支那とか亞非利加とかを材料に使つたりなどする者がある。例之今生きて居る人では、英吉利のキップリングの如き即ち即ち其一例で、無論渠は印度育ちであるから、從て多く印度の材料を使ふ便利もあらうが、而し其作風が一面寧ろ死んだスチーヴンソンなぞと同じく、新ローマンチシズムの脈に屬すべきもので、單なる男女の戀愛問題なぞいふものよりも、寧ろ今少し男らしい、若くば蠻的な調子な文學を喜ぶ、其結果は例之印度人が復讐の一念に身を燃やすといふやうな凄い調子とか、または印度に流浪して居る冒險者乃至印度駐在の兵隊なぞの血に渇いて絶へず鬪爭を夢みて居るとか、喇叭の響き、鐵砲の音に狂うて居るとかいふやうな人物の、胸に燃えて居る情を描くといふ風に、男性的興味を中心にして作つて居るものが多い。また極く新しいところではコンラッドなどいふ若い作者が好んで支那海などの凄味ある舞臺を自分の文學の長所にして居るなども皆此一味のワイルドな即ち野的といふところを要求して居る結果であらうと思はれる。斯樣な意味からしても、東洋諸國、其他野蠻な亞非利加などを材料とするものが出て來るのである。



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*註1:〓もすれば
「〓」は「宀」+「サンズイ」+「駸」の旁。訓みは「やや」。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shin_yaya.jpg

*註2:社會
「社」の旧字体。扁の「ネ」は「示」。

*註3:一層
「層」の旧字体。「曽」が「曾」。

*註4:起り
「起」の正字体。旁の「己」が「巳」。

*註5:温和しい
「温」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/on_atataka.jpg

*註6:調子
「調」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/cyou_shiraberu.jpg

*註7:機運
「運」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註8:者がある・冒險者・作者
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg

*註9:キップリング
原本には「キツプリング」とあるが、「囚はれたる文藝 附記(3)」の「キップリング」表記のように、抱月は欧文名カタカナ表記の促音便は小文字の「ッ」を使用しているので、その原則に従って改めた。
ジョゼフ・ラドヤード・キップリング(Joseph Rudyard Kipling/1865年~1936年)のこと。イギリスの作家・児童文学者・詩人。『ジャングル・ブック』『少年キム』等。

*註10:スチーヴンソン
ロバート・ルイス・バルフォア・スティーヴンソン(Robert Louis Balfour Stevenson/1850年~1894年)のこと。イギリスの小説家、詩人、エッセイスト。『ジキル博士とハイド氏』『宝島』等。

*註11:文學
「文」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bun_aya.jpg

*註12:兵隊
「隊」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tai_kumi.jpg

*註13:渇いて
「渇」の旧字体。「サンズイ」+「曷」。

*註14:絶へず
「絶」の正字体。旁の「色」が「刀」+「巴」。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zetsu.jpg

*註15:響き
「響」の旧字体、もしくは正字体だが原本画像不鮮明で確定できず。
旧字体は、
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_hibiku.jpg
正字体は、
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_seiji.jpg

*註16:鐵砲の音
「砲」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hou_tsutsu.jpg
「音」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ne_oto.jpg

*註17:情を描く
「情」の正字体。「月」は「円」。

*註18:コンラッド
ジョゼフ・コンラッド(Joseph Conrad/1857年~1924年)のこと。イギリスの小説家。元々ポーランド生まれで、ロシア、フランス等を流転し、1884年にイギリスに帰化。海洋文学で知られる。『闇の奥』『ロード・ジム』『ナーシサス号の黒人』『文化果つるところ』『密偵』等。

*註19:支那海
「海」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kai_umi.jpg

*註20:自分
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg

*註21:長所
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註22:要求
「要」の俗字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/you.jpg

*註23:諸國
「諸」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/syo_moro.jpg

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1

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2013/05/23 19:30
ワイルドだぜ~えっていって見たくなる



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