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盗月Blog——島村抱月TextData——


■近代文藝之研究|講話|歐文學中の日本(5)

■近代文藝之研究|講話|歐文學中の日本 (5)

そこで話が前に戻るが、日本を材料にして居るのは以上に述べた何の意味に中るかといふと、ピヱル・ロチー物など、また引續て出て來た幾多の同脈の作は、概して好奇心に驅られたのが多いのである即はち前に言つた樣な深い意味で日本を材料に取つたのではなく、寧ろ輕薄な、唯もう欧羅巴と違つた習慣風俗を見せるとか、渠等の眼には野蠻未開とも見える種々な異つた社會の現象を嘲弄の材料として使ふとかに過ぎなかつた。英吉利では、例之目下彼の國に流行つて居る滑稽オペラの中などにも有名な「ゲイシャ」と題するものなど、皆同じ脈を趁ふたもので、孰れも非常な好評を搏して世界中の到る處に繰返さるゝものであるが、「ゲイシャ」の中では何所が尤も有名であるかといへば、其中に例のチョンキナの調子を取つてチン・チン・チャイナマン云々といふ歌に合はせた音樂が非常な喝采で、此部分だけ抽て樂譜になつて出て居るものなぞもあつて、これが喝采の主因になつて居る。即ち斯樣な點に於て日本の音樂は欧羅巴に紹介せられたもので、名譽の次第といふべしだ。また「ミカド」と題する滑稽オペラの中では何うかといふと、是は日本の「ミカド」を嘲弄の材料に使つたもので、これにも同じく例の宮さん宮さんの唱歐など譜を付けて入れてある。要するに日本の社會を嘲弄せんとして作つた形ちになつて居る。



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*註1:前に
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg

*註2:戻る
「戻」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/modosu.jpg

*註3:述べた
「述」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/jyutsu.jpg

*註4:概して
「概」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/gai_oomune.jpg

*註5:違つた
「違」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註6:習慣
「習」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/syuu_narau.jpg

*註7:社會
「社」の旧字体。扁の「ネ」は「示」。

*註8:嘲弄
「嘲」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tyou_azakeru.jpg

*註9:過ぎなかつた
「過」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註10:「ゲイシャ」
ジェームズ・シドニー・ジョーンズ(James Sidney Jones/1861年~1946年)作曲・音楽監督のミュージカルコメディ(原題は『The Geisha』)。初演1896年、ダリー劇場。

*註11:趁ふたもので
原本には「趁うたもので」とあるが誤植と思われるので改めた。

*註12:好評
「評」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hyou.jpg

*註13:繰返さるゝ
「返」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註14:何所
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註15:チョンキナ
幕末期から明治期に流行した俗謡。「ちょんきな節」とも呼ばれ、さまざまな替え歌がある。
[参照HP]唄本から見た明治の流行り唄|管理人:小玉武司
⇒http://home.catv.ne.jp/ff/kodama/newpage2.htm
実際の唄もそのページの「唄ってみよう」にある。
⇒http://home.catv.ne.jp/ff/kodama/Chonkina110214_002.mp3

*註16:調子
「調」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/cyou_shiraberu.jpg

*註17:チン・チン・チャイナマン云々といふ歌
原本には「チン・チャン・チャイナマン」とあるが、その歌のタイトルは「Chin Chin Chinaman」と思われるので「チン・チン・チャイナマン」に改めた。
[参照HP]⇒http://youtu.be/kuAfeBPZZKc

*註18:音樂
「音」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ne_oto.jpg

*註19:喝采
「喝」の旧字体。旁が「曷」。
「采」は他の箇所では正字体(「爪」+「木」)が用いられているが、ここでは「采」となっているのでそのままとした。

*註20:部分
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg

*註21:次第
「次」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ji_tsugi.jpg

*註22:「ミカド」
脚本=ウィリアム・S・ギルバート、作曲=アーサー・サリヴァンのオペレッタ(喜歌劇)作品(原題「The Mikado」)。初演1885年(サヴォイ劇場)。

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1

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2013/05/25 21:09
チョイナチョイナ



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