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■近代文藝之研究|講話|歐文學中の日本(6)

■近代文藝之研究|講話|歐文學中の日本 (6)

然るに斯樣な意味で日本を材料に使つて居たのが、近時に及んで漸次變つて來て、寧ろ眞面目な意味でもつて日本を材料にする傾向になつて來た。殊に最近日露戰爭前後からといふものは、倫敦あたりの寄席劇場などで出す日本物までが、多く同情的な眞面目な作になつた。亞米利加には大分斯種の物があるやうであるが、それは知らない。倫敦で見た中では記憶して居るのは、或る大きな寄席で「おマツさん」と題する一幕物にしんみり[#「しんみり」に傍点]した日本物を見た事がある。また彼の當時日本にも噂になつて居つた、ツリーの演じた、「ダーリング・オブ・ゼ・ゴッヅ」(神々の思ひ物)と題する劇の如きは大物であつて、兎も角も日本の過去の社會を忠實に畫き出さうと努めた一例である。これ等の作は近時に於ける日本物の變化の例であらう。而して此の種眞面目な日本物の部に屬する一つの例として、茲には倫敦の某座でカーテン、レーザー即ち日本の中幕、西洋ではこれを本物の短い場合に罕に始めに附け加て演ずるものとする、それで興行した「ゼ・ミローア」即ち「鏡」と題する一幕劇の事を一言しやう。



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*註1:近時・最近
「近」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註2:漸次
「次」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ji_tsugi.jpg

*註3:前後
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg

*註4:同情的
「情」の正字体。「月」は「円」。

*註5:大分
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg

*註6:ツリー
ハーバート・ビアボム(or ビアボーム)・ツリー(Sir Herbert Beerbohm Tree/1853年~1917年)のこと。イギリスの舞台俳優、劇場プロデューサー。

*註7:「ダーリング・オブ・ゼ・ゴッヅ」
デーヴィッド・ベラスコ(David Belasco/1853年~1931年/米)作のブロードウェイ劇『The darling of the gods』のこと。1902年、初演。なおベラスコはプッチーニ作曲の『蝶々夫人』や『西部の娘』がオペラ化されたことで今日も名を残す。

*註8:過去
「過」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註9:社會
「社」の旧字体。扁の「ネ」は「示」。

*註10:茲には
「茲」の俗字体(か?)。Unicode にも文字種がないようなので作字してみた。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/koko.jpg

*註11:鏡
「鏡」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kagami_kyou.jpg

*註12:「ゼ・ミローア」
原本には「ゼー・ミロア」とあるが、次段では「ゼ・ミローア」とあり、また「ダーリング・オブ・ゼ・ゴッヅ」でも「the」は「ゼ」と表記していることから誤植と判断して改めた。

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1




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