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■近代文藝之研究|講話|獨逸現代の音樂家(2)

■近代文藝之研究|講話|獨逸現代の音樂家 (2)

即ち同じ一つの音鍵を敲いても、甲の人と乙の人の敲く刹那、其人の胸の底から發して指の先に傳はる其精神の工合で、同じ度の同じ音色の音でも違つたものになる。况んやそれが複雜な長短高低種々の音の結合上に現はれるに於ては、到底我々の知識力で分解し盡す事の出來ない微妙な精神の發現が、其那裏になければならぬ。而して此精神表現の模様が、奏せられたる音樂の生命であらうと思ふ。
而してかの西洋音樂の樂團に於ける指揮者(コンダクター)といふ者の司る所が、即ち此精神、生命の發揮といふ事であるやうに思はれる。幾百人の樂手が集らうとも、彼等は皆それ/″\前に樂譜を据ゑて居る、且つそれ/″\平常の稽古も積んで居るのであるから、譜さへ同じであれば何も指揮者は要らない譯であるが、それにも拘はらず諸君の知らるゝ通り、西洋樂團には中央に一段高く臺を構へて、概して聽衆の方に脊を向けたる一の樂長が、起立して指揮杖を盛んに打振り、兩手を躍らせてこれを指揮して居る。あの指揮者が非常に重要な位置を占めて居るといふのは、畢竟樂手の精神を指揮者の精神に統一して表出するの必要があるからであらう。いはゞ樂團の精神生命の塊りが指揮者である。



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*註1:即ち同じ一つの
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。

*註2:音鍵・音色・音・音樂
「音」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ne_oto.jpg

*註3:精神
「精」の正字体。旁の「青」の「月」は「円」。
「神」の旧字体。扁の「ネ」が「示」。

*註4:違つた
「違」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註5:分解
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg

*註6:生命であらうと思ふ
原本では「生命であろうと思ふ」とあるが誤植と思われるので改めた。

*註7:指揮者・といふ者
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg

*註8:司る所
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註9:集らうとも
原本では「集ろうとも」とあるが誤植と思われるので改めた。

*註10:それ/″\
「/″\」は踊り字・くの字点の濁点形。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/odoriji_dakuten.jpg

*註11:前に
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg

*註12:樂譜を据ゑて
原本には「樂譜を据へて」とあるが誤植と思わるので改めた。

*註13:平常
「平」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hei.jpg

*註14:要らない・重要な・必要
「要」の俗字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/you.jpg

*註15:諸君
「諸」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/syo_moro.jpg

*註16:通り
「通」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註17:概して
「概」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/gai_oomune.jpg

*註18:起立
「起」の正字体。旁の「己」が「巳」。

*註19:指揮杖
「杖」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/jyou_tsue.jpg

*註20:躍らせて
「躍」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/yaku_odoru.jpg

*註21:畢竟
「竟」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_tsuini.jpg

*註22:必要があるからであらう
原本には「必要があるからであろう」とあるが誤植と思われるので改めた。

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■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1




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