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■近代文藝之研究|講話|ピネロ作……(24)

■近代文藝之研究|講話|ピネロ作「二度目のタンカレー夫人」 (24)

オープレーはパウラの此言を慰め兼て、唯其名を呼ぶばかり、パウラは最早言ひ疲れて、來て私は眠くなつたと言つて、夫の肩に頭を擡せかける。其時室の外から再び友人のドランムルが歌を唄ひながら來るのが聞える。パウラは私はドランムルに逢ふのが厭だからといつて室を出で往く。ドランムルは事情を知らないから、オープレーの跡を趁ひ、暇乞ひ旁々深夜に拘らず復た來たのであるが、エリーンとアーデールの話をばコーテリオン未亡人から今聞いて來たといつてこれを祝すると。オープレーは、「私はアーデールの如き人物を咒詛する、然り自分は今こそ呪つてやりたく思ふ、かういつたら自分で自分を呪ふことになるかも知れないが、男の生涯といふやつを經て來た人間、即はち私や私の仲間等のやつた事柄のために、世間の人は幾ら迷惑を蒙つて居ることか、それが廻り廻つて今こそ我が身の上に報ひて來た。これで自分が昔しやつた男の生涯といふ罪業も帳消しになるから、今はこれを咒つても疚しうない、渠咒ふべし、渠咒ふべし」と激した體である。この有樣に前後の樣子を知らぬドランムルの愕くを更に其の手を把て、オープレーは「パウラだ、パウラだ、彼女とアーデールと二人は今夜茲所で逢つた、而して彼二人は滿更の他人同志ではなかつた、」と言ひ放つ。ドランムルは意外の事に愕いて、オープレー!と一言その名を呼んだばかり。オープレーは言を續けて、「彼れ咒ふべし、哀れむべきは我が妻、」といふ時エリーンが入つて來る。



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*註1:兼て
「兼」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ken_kaneru.jpg

*註2:逢ふ・逢つた
「逢」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。(※表示フォントによっては「一点シンニョウ」表示となる場合の註)

*註3:事情
「情」の正字体。「月」は「円」。

*註4:祝する
「祝」の旧字体。「示」+「兄」。

*註5:自分
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg

*註6:迷惑
「迷」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註7:帳消し
「消」の旧字体。旁の「ナオガシラ」は「小」。

*註8:前後
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg

*註9:更に・滿更
「更」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sara.jpg

*註10:茲所
「茲」の俗字体(か?)。Unicode にも文字種がないようなので作字してみた。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/koko.jpg
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註11:他人同志ではなかつた。」と言ひ放つ。
現代の用語としては「同志」は「同士」の誤植となるが、当時は当て字等漢字の用語幅は広かったため、原本のままとした。
また、『なかつた、」と言ひ放つ』の『読点+」』という表記は不自然で、読点を使うとしたら『」+読点』が自然と思われるし、あるいは読点が句点の誤植とも考えられるが、この講話筆記者は他の箇所でも同様の表記をしているため、これも原本のままとした。

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1




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