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■近代文藝之研究|講話|ピネロ作……(25)

■近代文藝之研究|講話|ピネロ作「二度目のタンカレー夫人」 (25)

エリーンの顏色は變つて見える、そしてエリーンは一寸父に來て下さいといふ。オープレーが連れ立つて室外に出ると、「パウラの室に往つて下さい、早く、早く、」といつて、父が愕いて驅けて往かうとする、其の手を扣へて、怖さの餘りに、「イャ/\往かないで下さい、」と前後忘却の態である。父は振り切つて奧に入る。エリーンは倒れる。これをドランムルが起こして、何事かといふ。エリーンは「私が先刻パウラに酷い事を言つたものだから、今それを詫ようと思つてパウラの部屋の戸の所まで往くと、室内で人の倒れる音がした、愕いて入つて見たらパウラは自殺して居た、然うです、實に私が惡かつた世間では自殺だといはうけれど、實は私が殺したも同然、私さへ今少し寛い心を有つて居たら斯樣な事は無かつたでせうに、」といつて椅子の上に氣絶して倒れる。それを介けてドランムルが戸を排けて向ふを見込む。それで幕です。(完) (明治三十九年談話筆記)



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*註1:エリーンの顏色は
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。

*註2:父
「父」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hu_chichi.jpg

*註3:連れ立つ
「連」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註4:イャ/\
「/\」は踊り字・くの字点。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/odoriji.jpg

*註5:起こして
「起」の正字体。旁の「己」が「巳」。

*註6:先刻
「刻」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/koku_kizamu.jpg

*註7:酷い
「酷」の旧字体。「酉」+「牛」+「口」。

*註8:詫ようと思つて
原本には「詫やうと思つて」とあるが誤植と思われるので改めた。

*註9:戸の所・戸を
「戸」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ko_to.jpg
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註10:室内
「内」の旧字体。「冂(=エンガマエ)」+「入」。

*註11:倒れる音
「音」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ne_oto.jpg

*註12:無かつたでせうに
原本には「無かつたでしやうに」とあるが誤植と思われるので改めた。

*註13:氣絶
「絶」の正字体。旁の「色」が「刀」+「巴」。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zetsu.jpg

*註14:見込む
「込」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註15:筆記
「記」の俗字(か?)。旁が「己」ではなく「巳」。

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1




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