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■近代文藝之研究|講話|オペラ雜感(1)

■近代文藝之研究|講話|オペラ雜感 (1)

    オペラ雜感

私は英吉利と獨逸とでオペラを觀たのですが、それに付て思出したことを雜感として述べませう、英吉利で聞たのは第一がローヤル、オペラ座でありますが、英吉利本國のオペラといふものはまだあまり立派でありませんから、獨逸で夏のオペラのサイゾンの濟んだ頃にロンドンへ獨逸のオペラを呼んでやらせるのであります、勿論英吉利にもスタンフォード。サリワンなどの如き作者はありますがナショナル、オペラと誇るに足る者は先づ無いのであります、故に自然獨逸のオペラを招く外はないのです、英國には有名なオペラ、コムパニーが二つありまして其一をカールローザ、コンパニーと申しまして他の一をムーデ[#「ヰ」は小文字表記]ー、マンナー、コンパニーと申します、此二つのコムパニーとてもコンダクターは獨逸人が多いのでありまして、歌ふ人も手の足りない所から大陸の者を呼んで來るのである。
勿論一切英語で歌ふ、獨逸物佛蘭西物は皆英譯して歌ふのです、私が初めて英吉利でオペラを觀ましたのは前申した如くローヤル、オペラに於ける大陸オペラでありました、作は伊太利のヴエルヂーの「アイダ」であつてヴエルヂーは御承知の如く伊太利のオペラ作者中の大家でありますが、此作の筋を摘んで云ひまするとアイダと云ふエシオピア王の娘がエジプトに囚はれて居る内其の主人たる女公主アリネムスと二人ともラダメスといふ一人の勇士に戀慕して、さうして其男は寧ろアイダの方に心を寄せて居る、所がアイダはラダメスを誘ひ敵軍の内情を漏らさせる其爲めに愛人たる勇士が捕はれる、



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*註1:獨逸
「逸」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註2:述べ
「述」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/jyutsu.jpg

*註3:サイゾン
ドイツ語「Saison(=シーズン・季節)」のカタカナ読み。

*註4:スタンフォード
チャールズ・ヴィリアーズ・スタンフォード(Sir Charles Villiers Stanford/1852年~1924年)のこと。アイルランド人の作曲家、指揮者。王立音楽大学、ケンブリッジ大学の教授も勤めた。

*註5:サリワン
アーサー・シーモア・サリヴァン(Sir Arthur Seymour Sullivan/1842年~1900年)のこと。イギリスの作曲家。ウィリアム・S・ギルバート(劇作家・作詞家、William S. Gilbert/1836年~1911年)と組んでのオペラは、サヴォイ・オペラ(ドイリーカート劇団が主としてロンドンのサヴォイ劇場で上演したのでこう呼ばれる)として人気を博した。
原本他項には「サリヴァン」「サリワ゛ン」「サリバン」の表記もあるが、表記の統一は保留し、原本のままとした。

*註6:作者・足る者・大陸の者
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg

*註7:足りない所・所が
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註8:前申した
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg

*註9:ヴエルヂー
ジュゼッペ・フォルトゥニーノ・フランチェスコ・ヴェルディ(Giuseppe Fortunino Francesco Verdi/1813年~1901年)のこと。イタリアの作曲家。主にオペラを制作。『椿姫』、『アイーダ』等。
原本他項には「ヴェルデヰ[#「ヰ」は小文字表記]ー」の表記もあるが、表記の統一は保留し、原本のままとした。

*註10:居る内・内情
「内」の旧字体。「冂(=エンガマエ)」+「入」。
「情」の正字体。「月」は「円」。

*註11:女公主
「公」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kou_ooyake.jpg

*註12:敵軍
「敵」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/teki_kataki.jpg

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1




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