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■近代文藝之研究|講話|オペラ雜感(5)

■近代文藝之研究|講話|オペラ雜感 (5)

それから伯林に參りましたが此處はオペラの本場でありますから大分研究的に觀ることが出來ました、生きて居る作者の物ではフンバヂンクの「ヘンゼル、ウント、グレーテル」と云ふお伽オペラを初に觀ました、それから伊太利のレオンカバローに獨逸の皇帝が頼んで作らせた「ローラント、フォン、ベルリン」と云ふのを觀ました、又ワグナー物はパーシファル。リエンヂを除いて凡て見て二三度に及んだのですが、外に參考として近世ローマンチックオペラの近祖ヴェーバーの「フライシユッツ」を觀ました、それから又たマエルベャーの「ヒユーゲノツテン」ロルチング「ウンヂーネ」ヴェルヂー「ツラバドア」等をも觀ました、而して是丈けの範圍で飜つて見ますると曩に能とか謠曲とか考へたのが間違ひである如く、淨瑠璃であると考へたのも間違ひであると云ふことに到着しました、結局オペラは其以外の物である、其理由を考へますると、第一ワグナー物でも、ヴェーバー物でも通じて其思想の上から言ふと、殆ど全體の流行として中世的で超人間的でローマンチツクであつて獨逸のザーゲ即ち傳説から採つた、あの思想がオペラの生命になつて居る、故に謠曲に似て居ると最初は考へたのであるが、併し題目は中世的であつても取扱ふ方法は十九世紀的であつたのであります、即ち寫實的若くは戯曲的に取扱つたのであります、



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*註1:大分
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg

*註2:研究
「研」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ken_togu.jpg

*註3:作者
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg

*註4:フンバヂンク
エンゲルベルト・フンパーディンク(Engelbert Humperdinck/1854年~1921)のこと。ドイツの作曲家。オペラ『ヘンゼルとグレーテル』等。
・補註:「演藝雜談」の稿では「フンパーディンク」の表記。

*註5:レオンカバロー
ルッジェーロ・レオンカヴァッロ(Ruggero Leoncavallo/1857年~1919年)のこと。イタリアのオペラ作曲家、台本作家。『道化師』等。

*註6:獨逸
「逸」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註7:頼んで
「頼」の旧字体。旁の「頁」が「刀」+「貝」。

*註8:「ローラント、フォン、ベルリン」
『ベルリンのローラント(Der Roland von Berlin)』(1904年)のこと。

*註9:と云ふのを觀ました、
原本では「と云ふのを觀ました」で改ページとなっている。一般には句点の入るところで脱字と思われるが、この稿の筆記者の記述法に倣って読点とした。

*註10:又ワグナー物は・それから又た
「又」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mata.jpg

*註11:パーシファル。リエンヂ
原本には「パーシファルリエンヂ」とあるが『パーシファル』という作品と『リエンヂ』という作品と判断し、欧文名を並列する場合の抱月の表記法に従い、句点を補った。
なお、パーシファルは『パルジファル(Parsifal)』、リエンヂは『ニーベルングの指環(Der Ring des Nibelungen)』のことかと思われる。 

*註12:近世・近祖
「近」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
「祖」の旧字体。「示」+「且」。

*註13:「フライシユッツ」
『Der Freischutz(魔弾の射手)』のこと。
原本のこの談話筆記者は、促音・拗音の表記に一定のルールをおいていないようでブレがある。「ユ」は小書きに改めるべきか判断に迷ったが、原本のままとした。以下、促音・拗音表記は原則、原本のままとした。

*註14:マエルベャー
ジャコモ・マイアベーア(Giacomo Meyerbeer/1791年~1864年)のこと。ユダヤ系ドイツ人の歌劇作曲家。

*註15:「ヒユーゲノツテン」
『Die Hugenotten(ユグノー教徒)』のこと。一般には、台本が台本がフランス語で、初演がパリ・オペラ座であったので作品タイトル名としてはフランス語の『Les Huguenots』とすることが多い。

*註16:ロルチング
グスタフ・アルベルト・ロルツィング(Gustav Albert Lortzing/1801年~1851年)のこと。ドイツの作曲家、オペラ俳優。『ロシア皇帝と船大工(Zar und Zimmermann)』『密猟者( Der Wildschutz)』等。

*註17:「ウンヂーネ」
『ウンディーネ(Undine)』のこと。フリードリヒ・フーケの小説『ウンディーネ』を原作に、ホフマンやチャイコフスキーもオペラを作曲している。
なお、「ウンディーネ」は「オンディーヌ(Ondine=フランス語)」のことで、四精霊のうちの水の精霊。

*註18:ヴェルヂー
ジュゼッペ・フォルトゥニーノ・フランチェスコ・ヴェルディ(Giuseppe Fortunino Francesco Verdi/1813年~1901年)のこと。イタリアの作曲家。主にオペラを制作。『椿姫』、『アイーダ』等。

*註19:「ツラバドア」
『椿姫』の原題である「La traviata(道を踏み外した女)」のことかと思われるが、この音読みだとすると「トラヴィアータ」となる。「演藝雜談」の稿では「ツロバドア」の表記となっている。

*註20:是丈け
「丈」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/jyou_take.jpg

*註21:曩に
訓みは「さき(に)」。「先に」と同意。

*註22:間違ひ
「違」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註23:通じて
「通」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註24:超人間的でローマンチツクで
原本には「超人間的でローマンチクで」とあるがこの稿では「ロマンチック」を「ローマンチツク」と表記してあるので脱字と判断し改めた。

*註25:ザーゲ
ドイツ語「Sage」のこと。

*註26:傳説
「説」の旧字体。旁は「兌」。

*註27:採つた
「採」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sai_toru.jpg

*註28:十九世紀的
「紀」の俗字(か?)。「糸」+「已」。

*註29:戯曲的
「戯」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tawamure.jpg

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