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■近代文藝之研究|講話|舞踏とオペラ(2)

■近代文藝之研究|講話|舞踏とオペラ (2)

次には即ち一擧一動に、或る程度まで悉く意味を持つて居る、言語の役目をする舞踏、それは假りに戯曲的と名付けませう、日本の振事所作事の中にあるのが其例で、前に申した以太利ダンスも即ち此意味を持つて居る。其他今一とつ數へて置くべきは肉體上の自然の要求から來る動作で、これはかの演説の身振りといふやうなものと連絡したものでせう、例へば大きな聲を出すことが必要の場合には、自ら胸を擴げるとか、非常に感情の激して居る時には、不知不識其邉を往きつ戻りつしたりなどするといふやうな意味の種類である、假りにこれを生理的とでも名付けませう、これも亦た舞踏といふには當らぬといふかも知れませんが、併し實際或る程度まで藝の中に入つて居ると思ひますから、茲に加へて置きます。
かやうに舞踏の種類を素人考で別けては見たが、今の歐羅巴で、かゝる方面の藝の頂點と見られるオペラに就て申して見ると、オペラの中にある舞踏の程度は頗る複雜で説明の困難なのが解りませう、能く日本から往つた人が始めてオペラを見て、オペラは能であるといふ、それも無理でないといふ理由もある、ある程度までは能式であるが、亦た決して能一式でないことは明らかである、之れを動作の上から見ますと、能には私の見た範圍でいふと、無論第一の要素として戯曲的動作がある、次にそれが醇化せられて抒情的にもなる、また恐らくある程度まで形式美的にもなつて來て居る、けれども生理的の動作は殆んど入つて居ないやうである、これに反して西洋のオペラには、何しても彼の通り聲を主にして、そして踊る人が凡て自から謠ふのであるし、且つ聲も性質が專門的科學的に判然と區別せられて、男聲部でバスはバス、テノアはテノア、女聲部でアルテはアルテ、ゾプランはゾプランといふ工合に、聲が精煉せられて、そして舞臺も何千人を客れるといふ大劇場の中に隅なく響き渡る量を持つて居なければならぬ爲、聲を出すといふ其事が、既に非常な肉體的の働きである、



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*註1:次には・次に
「次」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ji_tsugi.jpg

*註2:程度
「程」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hodo_tei.jpg

*註3:戯曲
「戯」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tawamure.jpg

*註4:名付けませう
原本には「名付けましやう」とあるが誤植と思われるので改めた。

*註5:所作事
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註6:前に
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg

*註7:要求・必要・要素
「要」の俗字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/you.jpg

*註8:演説
「説」の旧字体。旁は「兌」。

*註9:連絡したものでせう
原本には「連絡したものでしやう」とあるが誤植と思われるので改めた。
「連」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註10:感情
「情」の正字体。「月」は「円」。

*註11:不知不識
「識」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shiki.jpg

*註12:戻り
「戻」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/modosu.jpg

*註13:説明
「説」の旧字体。旁は「兌」。

*註14:困難
「難」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/nan.jpg

*註15:解りませう
原本には「解りましやう」とあるが誤植と思われるので改めた。

*註16:程度
「程」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hodo_tei.jpg

*註17:通り
「通」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註18:判然
「判」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/han_wakaru.jpg

*註19:精煉
「精」の正字体。旁の「青」の「月」は「円」。

*註20:客れる
「客」を「い(れる)」と訓ませるものと思われる。「容(れる)」の誤植の可能性も考えられたものの、原本のままとした。

*註21:響き
「響」の旧字体、もしくは正字体だが原本画像不鮮明で確定できず。
旧字体は、
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_hibiku.jpg
正字体は、
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_seiji.jpg

*註22:既に
「既」の正字体。「白」+「ヒ」+「旡」。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sudeni.jpg

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1




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