Nicotto Town


ごま塩ニシン


脳活日誌660号

   物音に怯える年齢。
 普段ならば、何でもない物音でも深夜になって、猫が屋根の上を通過するときに瓦を踏みつける微かな音に気付いて、誰か人が潜んでいるのではないかと錯覚することがある。母親が「誰かおる。」とよく言っていた。私が指さされた場所に行って、「何もおらんかった。」と言ってやると安心したものであった。実際に、夜になって部屋に電気が付いていると、光がガラスに反射して、思わぬところに像を結ぶ時がある。私自身も庭に面した廊下の先にあるトイレに行こうとして、蔵の前に像が反映しているので足を止めることがある。

 原理は簡単で部屋で見ていたテレビの光が、廊下のガラスに反射し、さらに、この映像が屈折して、蔵の前のガラス戸に反射している場合があって、こうした光の微妙な反射に気付くまで心の中で不安が高まるのである。錯覚なのであるが、この錯覚に精神力が抗しきれなくなる年齢になってきたのかもしれない。

 ある時、母親が玄関の上がり框に座り込んで、杖をしっかりと握って、悪い奴が家の中に入ってこないように見張っていると言い出したことがあった。私が、「なにをしているのだ。」と言っても、「お前は出てくるな。あっちへ行っておれ。」といって手で追い出すようにするのであった。これが昼頃から夕方まで続いた。母親が言うには道路を隔てた向かいの家の屋根に何かがおる、というのであった。我が家を杖をしっかりと掴んで、守ってくれていた。夕方になって疲れたのか、「もう、おらんようになった。」と言って、部屋に帰ったことがあった。譫妄状態で幻影を見ていたのかもしれない。これは脳の映像を見ていたのだろうか。




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