Nicotto Town


ごま塩ニシン


夜霧の巷(56)

 菅原は窓を開け、眼下に広がる港町から鋭気をもらうために深呼吸をした。それから意を決したように録音機のスイッチを押した。 <ここからは植村雪枝が語った録音の内容である。>

 私が小学4年生の時、両親が車で旅行に連れていってくれた。北陸の加賀温泉郷へ行く予定だった。それが高速を走行中、大型トラックに...

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夜霧の巷(55)

  植村雪枝が静かに病室で語りだした。菅原は録音機のスイッチを入れた。 聞き取りは二日にわたったが、三日目の朝、雪枝の病状が急変して面会謝絶になった。クラブ霧笛の美佐からママの容態が悪くなった。聞き取り取材は当分延期してくださいと菅原は美佐から言われた。かなり強い調子で通告された。菅原が雪枝の病状を...

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夜霧の巷(55)

 北川美佐は気を利かした。「店の準備がありますので、行きますがいいですか。」と美佐は雪枝の了解をとって病室を後にした。しばらく沈黙があって、菅原は自分が描いてきた構想を植村雪枝にぶっつけてみた。「あのう、厚かましいお願いかもしれませんが、あなたの自叙伝を僕に書かせていただきたいのです。いかがでしょう...

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夜霧の巷(54)

 菅原は病院の近くの商店街で小さな果物籠を買った。午後2時まで待ち切れず、植村雪枝の病室がある5階まで上がって、廊下の長椅子で待っていた。「あらー。あなただったの。」 こう言って、北川美佐が声をかけて来た。「昨日はどうも、ありがとうございました。」「お礼なら雪枝ママにいってちょうだい。ということは次...

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夜霧の巷(53)

 菅原はじっとしていられなかった。一刻も早く植村雪枝から話を聞き出したかった。何か、謎に向かって、事態が動き出したような気がしてならなかった。雪枝の入院している病院へ行くにしても、面会は午後になる。彼は時間つぶしにコーヒーショップ「カモメ」に寄った。 ランチタイムなので店は混んでいた。道路に面した窓...

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