Nicotto Town


ごま塩ニシン


すれ違った影の交錯(3)

 明美の母が目を覚まし,首を動かした。
「起きたの。」と声を掛けると、「悪い夢を見たわ。」と千代乃は言った。
「どんな夢だった。」
「信彦が牙をむいて、襲い掛かって来たのよ。怖かった。」
「兄さん。どうしているのかしらね。シンガポールへ行くと言って、日本を出たきりで、もう17年くらいになるわね。」
 信彦のことを考えると、明美の気分は鬱になった。亡くなった父、大野伸吉が母と結婚する際に信彦は存在していた。夫婦はお互いに連れ子を抱えた同士の結婚であった。信彦を生んだ母親は帝王切開による出血多量で亡くなっていた。当時、医療ミスではないかと伸吉は疑問を抱いたが、出産直前に母親が急性盲腸炎を併発したものだから、子供を優先するか、母体を優先するかで医師に問われ、伸吉は二人とも優先して下さいと絶叫したものであった。
「やるだけやってみましょう。」これが医師の最善の言葉だった。運がなかったとしか言いようがない。信彦だけが生き残った。したがって、兄さんとは呼んでいるが、明美との血縁関係はなかった。義理の兄で血族的には他人であった。大野伸吉と西沢千代乃が再婚した時、伸彦は小学4年生であった。明美は幼稚園児で成長盛りの微妙な年齢の子供を抱えて千代乃の苦労も相当であった。信彦にしてみれば急に出現した義理の母に対して反抗的になるのも当然であった。日常生活の面倒を見る千代乃にしてみれば、真直ぐ大人になってくれるように願ったが、感情の溝は深まっていった。
 朝起きてから夜寝るまでに無数の行為がある。それを一つ一つコントロールしていくことは無理であった。こうしたことを理解した上での養育になるから、どこかに対立点が出てきて当然であった。学校で喧嘩をしたり、暴力事件に巻き込まれて千代乃が校長から注意を受けたこともあった。信彦の性格が譲りたくないというか、何かでミスをしても素直に謝るということが、なかなかできなかった。一方で独立心が強いというか、何でも自分で決め、遠慮しない性格であった。明美に対しても、「お前、おかんの手先になるな。」と何度もやりこめられたものであった。
 千代乃にしてみれば、信彦は預かりものという意識が強かった。なるべく穏便にことを済ませて、波立たないように願うばかりであった。母はベッドで寝ていても、夢の中で信彦に気をもんでいるのかもしれなかった。

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2017/12/23 15:43
おお!、ゴマ様の小説が。

ノー暖房3年以上。動けば。服を切れば、何か、してれば。温かい。
サプリで、風邪知らずだ。

月1のメール便も、追加した。慣れるまで、掛かるな。プライド。

でも、ニュースが、なーんにも、進まんな。



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