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ごま塩ニシン


おすがり地蔵尊秘話(4)

 妻が娘の家に行ってから2日後、秀子の弟から電話がかかってきた。一瞬、夫婦喧嘩の仲裁かと思ったら、違った。
「姉さんに至急に連絡を取りたいのです。」
 娘の連絡先を教える前に、義弟が、緊急だという話の内容を知りたくなって、私は余裕を持って、問い質した。
「娘の家に骨休めに行ってるのだが、緊急って、何かあったの。」
「前からの懸案事項で、親父の遺産相続の件で書類に印鑑を欲しいのです。土地の境界線のことで、隣接する地主との問題で解決できる目途がついたので、合意文書に印鑑が要るのですよ。親父が生きている時に、処理をしておいてくれたら、良かったのですが、死んでしまったから、相続の手続きと同時に土地の境界を解決したいのものですから。兄さん、お願いしますよ。姉から連絡をもらえませんでしょうか。」
「土地というのは山林のことか。」
 私は細かく訊いた。
「まあ、山もありますが、耕作していない水田の水利権やら畑もあるのですよ。」
「宅地開発業者が売ってくれと言って来た畑のことか。」
「そうなんです。私は父の事業を引き継いたのですが、父が連帯保証をしていた借入金の処理で資金が要るものですから、急いでいるのです。」
「わかった。」
 こう言うと、私は娘の家の電話番号を知らせた。だいたい、この義弟というのは甘やかされて育ったのか、自分中心に物事を考えていく傾向にあって、父親の死後2年近くなるのに親戚同士の付き合いも、疎んじていた。父親の1回忌の折りも、秀子が電話を入れるまで何も言ってこなかったという経緯がある。秀子も義弟の嫁とは性格が合わないのか、親しい付き合いはしていなかった。
 電話を切ってから私は、ある不安に襲われた。確かに嫁の秀子とは図書館で借りてきた毒物の本で口論になったが、この程度の夫婦喧嘩は、どこの家でも起こり得る出来事なので、私は特に心配をしていなかったが、秀子と弟との相続問題で思わぬ展開をしそうな予感を感じた。それは思わぬ出来事で発火する人間関係の思惑違いというか、人の露骨な本性であった。素直に解決する問題が、お金という絡まりで縺れていくことであった。瞬間的に抱く不安というものは、案外、現実性をもって迫ってくるものなのである。

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2018/02/05 06:24
相続の手続き。
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