Nicotto Town


ごま塩ニシン


おすがり地蔵尊秘話(16)

 離れを借りるというより、私は大学時代の下宿生活を思い出していた。正直に言えば、離婚を前提にした別居という考えではなかった。甘い考えではあったが、あまり先のことまで考えても、仕方がないというか、どこかオポチュニスト的な性格から抜けきっていなかった。いつも出たとこ勝負で生活してきた。ただし、寝る布団はどうするのかとか、具体的な物の調達になって、自宅から引っ越し荷物をトラックに積み込めば、近所の目もあるので、できるだけ穏便に物静かに居場所を変更したかった。
 家電量販店へ行って、ホーム炬燵や電気ポットを買ったり、寝具スーパーへ行って簡易ベッドを買ったりした。母親が残してくれていた金銭があったからだ。結局、実際に生活基盤を移し終えたのは1週間後であった。当日、宅急便が次々と到着して、段ボールなどを整理している内に夕方になってしまった。私は浄水器で淹れたコーヒーを飲んで、やっとゆっくりできた。これからが俺の人生の勝負かもしれないと思えた。一息入れてから、私は娘の家に電話を入れた。
「新しい居場所ができたから。一応、連絡しておく。」
 私は優子に住所を教えた。
「お母さんに代わります。」と娘は言った。
 妻の秀子は二階で生活しているらしく、電話に出てくるまで時間がかかった。
「はい。もう、移ったの。」
 秀子の声に元気がなかった。
「おまえさー。元気ネーナ。大丈夫。どこか悪いのか。」
「なんともないけれど。そんな風に聞こえる。」
「俺と別れるって、怒鳴っていた元気はどこへ、いったんだよ。」
 また、沈黙が続いた。
「おーい。俺だって、忙しいんだから、関心がなければ、電話を切るぞ。」
 こう脅かすと、秀子は、ぼそっと本音を吐いた。
「あのね。弟のことで相談にのって欲しいのよ。」
「お前の実家の相続のことか。そんなもん。何も悩むことはないだろう。権利放棄すれば、すむことじゃないか。だいたい、なんだ。お前の弟は甘やかされて育っているから、努力もせんし、才能もないのに親の商売の後を継ぐものだから、大変なことが起きるのだ。適当に、ほっておいたら、いいのだ。」
 秀子の態度が和らいできたのか、義弟のことで相談にのってもらえないかと言ってきたから、私は思った通りのことを言ってやった。

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2018/02/21 06:07
なんか読売新聞小説もだが、みんな「生活」にすら、困窮の文章やな。失礼。



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