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ごま塩ニシン


おすがり地蔵尊秘話(18)

 古川静次はドイツ製の車に乗って来た。若い頃からの静次の愛車だが、私は気に入らなかった。儲けているのならいいが、経営の苦しい時に、こうした個人趣味は何か空疎に思えてならない。
「口うるさいようだが、車以外の乗り物にして身を引き締めた方がいいな。」
 私は正直に言った。静次が渋い顔をした。が、素直にこう言った。
「いやー。言われると思っていました。売ります。」
 静次は運転資金に困って、闇金に手を出したことや、返済の取り立てが厳しいので女房がノイローゼになりかけていると言った。資金を少し融通してくれないかとも申し入れてきたので、私はきっぱりと断った。
「お父さんから事業を引き継いだ後、何か経営を改革してことある?」
 私は根本問題に突っ込んでみた。
「特にないです。親父が開拓した得意先を維持していくのが精一杯です。そもそも、親父との関係が濃い出版社の倒産が危機の始まりです。」
「そりゃないだろう。お父さんの所為にするのは良くないよ。取引先として不適切であったのなら、きっぱりと断る、これが経営じゃないか。」
「まあ。そうですけれども。なかなか、単純にはいかないのですよ。日刊の業界新聞を抱えていましたから、断れませんよ。行き着くところまでいかないと。」
 こう言って、静次は天井を見上げた。
「それで不動産の始末はできたのか。処分すれば、相当な資金が都合できるだろう。ややこしい所から金を借りなくても、なんとかならないのか。」
「土地や山は親父が生きていた時に銀行の担保に入っていましたから、あるというのは名目だけで、中身はないのと同じことなのです。融資も評価額以上に設定されていましたから、手の付けようがないのです。親父が招いた火の車を引き継いだばっかりに、もう、対策の打ちようがないのです。」
 静次の嘆き節を聞いていると、私も気分が滅入ってきた。
「しかしだ。何とかしなければならないのだろう。」
「それは分かっています。最終的には、今、住んでいる自宅の売却しかないのですが、それが姉との共同名義になっているものですから。」
「秀子には権利放棄しろと言っておいたが、まだ手続きをしていないのか。」
「書類は先日、貰いました。だいぶ文句を言われましたが、了解しました。」
「当たり前だわ。弟が困っているのだから。」
 静次と話をしていても、私は解決の糸口を見つけられなかった。ただ、当面の闇金の処理だけは、してやりたかった。私は手帳に挟んでいた名詞を静次に渡した。
「弁護士と経営コンサルタントの肩書がついていますね。この人、藤森勇気、この名前を聞いたことがありますね。」
 と静次は言った。
「そうだろう。俺が勤めていた会社の顧問弁護士をしていた。大学の1年後輩に当たる。この人物は最初、検察官になって、それから弁護士に転職し、独立した。闇金処理の専門家で、中小企業の経営者会議で講演をしているから、名前は知られているだろう。この人に頼んでおくから、静次君が困っている当面の闇金対策として相談したらいいだろう。」
 私がこう説明すると、静次は相談料がいくらになるかとか言い出したので、余計なことを考えずに直行しろと、その場で藤森弁護士に連絡を入れ、都合を聞いた。すると事務係の女性が出て、今日は公判があるので、それが終われば、事務所に戻ってきますということであった。実は先日、静次から相続のことで姉の秀子に連絡したいと言ってきた時、私は何か起こりそうだという予感がしたので久しぶりに藤森に連絡を取っておいたのである。まあ、ずばり直感が的中する状況になった。だが、あんまり喜ばしい出来事ではない。私は静次と別れて、これでやっと一人になって、文章でも書けるようになったと思った。

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2018/02/24 08:08
お!狙いが、「車」になった。

アルマーニ的、クエストが、くるだろう。(笑い



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