Nicotto Town


ごま塩ニシン


夜霧の巷(10)

 私服の由梨花は美しく輝いていた。慎一郎はなるべく冷静に眺めようと思った。気持ち的に引き締めておかないと、この女はいきなり抱き着いてくるかもしれないという警戒心が先だった。
「今日は急いで出ていったわね。これコーヒー代のおつり。」
 こう言って、由梨花は小銭の入った封筒を慎一郎に渡した。
「ありがとう。どうして、分かったの。」
「そりゃ、分かるわよ。」
 由梨花はソファーを大きく揺らして菅原の横に座った。こうした仕草を伯母の陽子は楽しそうに眺めていた。
「お肉。いくらだった。払うから。」
「おばさん。いいのよ。慎一郎さんのために買って来たんだから。」
 由梨花は、唇をつけんばかりに慎一郎の耳元で喋った。
 伯母の住んでいる今の家は、子供の時から慎一郎と由梨花の遊び場であった。少々派手なことをしても、子供同士の、いたずらのように感じられた。これが二人の悩みでもあった。慣れてしまって、刺激にならなかった。何か、お互いが新鮮に見えるようにリセットする方法がないものだろうかと由梨花は常に考えていた。コーヒショップカモメで出会っても、他人顔するというのも一種の考案であったが、こんなことでは澱んだ雰囲気の解消にならなかった。
 伯母の陽子にしても、こうした二人の心理を理解していたので、どうにかして由梨花と慎一郎の関係を刺激的なものにしたかった。
「最近、話題になっているユーチューブ見た。」
 慎一郎は話題を由梨花に提供した。
「なんのこと、教えて。」
「食事がすんだら、一緒に見て欲しい映像があるのだよ。俺が一人で見るより、新鮮な由梨花の目で、映像を観察して欲しい。」
 これは慎一郎の思い切った提案であった。
「よくわからないけれども。楽しみね。慎ちゃんに頼まれるなんて。」
「なんだろう。私も興味あるわ。」伯母は、こう言って笑った。




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