Nicotto Town


ごま塩ニシン


夜霧の巷(11)

 女二人に慎一郎の三人で投稿ビデオの画像点検が始まった。菅原はルポライターを志すと決めた時、文章と映像をセットで整えることが必須と考えて、仕事を素早く仕上げるためにも画像修正ソフトを事前にパソコンに入れていた。
 ダイニングキッチンから応接間に移動すると画素数の精密な大型ディスプレイに大学生の宮田雄太から送信されてきた画像を映し出した。
「運河橋を狙って映してるのね。」
 由梨花は直ぐに判断した。
「結構、雨が降っていたのね。」
 伯母の陽子が覗き込みながら言った。情景に人物が映し出された。肩を揺らしながら小脇にバッグを抱えている姿が鮮明に出ていた。橋の中ほどに来て、男の後方から中型の車が接近してきた。この時、男が体を前かがみにして、上半身を揺らせながら橋の縁から道路の真ん中へ出て来たように見えた。後方から接近してきた車がはっきりとスピードを落とす様子が分かった。やがて、男の姿を隠すようにして車が通過したが、車の前方にいた筈の男の姿は映像から消えていた。十秒ほどして後続の車が映し出された。
「これがユーチューブに投稿されたものだ。」
 慎一郎が説明すると、すかさず由梨花が言った。
「さっきの男性、どうなたのよ。」
「だからさ、どうなったのか、とみんなが注目したわけなんだよ。」
「ふーん。そうなの。」
 由梨花は珍しものを見たというより、慎一郎の顔を真剣に見つめた。何か、新しい菅原の一面を発見したような瞳であった。
「これが話題になっているユーチューブのことなのね。私も初めて見たわ。この間から、友達同士で話していたら、ユー、ユー言ってるからさ、何のことだと思っていたのよ。これが港に浮いていた男の人というわけね。これだったら、車に追突されて海へ落とされたと思われても仕方がないじゃない。」
 伯母の陽子は断言した。
「そう。私も伯母さんの言う通りだと思う。」と由梨花が追加認定した。
「素人は単純に、そう断定するが、そう簡単には、いかないのですよ。」
 慎一郎は薄笑いを浮かべて、二人の顔を見て、ここからが勝負だと思った。




月別アーカイブ

2024

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2015


Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.