Nicotto Town


ごま塩ニシン


夜霧の巷(24)

 二人の青年客がコーヒーショップ『カモメ』を出た直後であった。パーンと乾いた音が三発、連続して港に響いた。続いてキーン、ブーンと車が急発進する音が続いた。レジーにいた浜田由梨花は「何の音だろう。」と不振に思って、道路に視線を向けると、先ほどまで店にいた青年の一人がが50メートルほど先の道路でうつ伏せになって倒れていた。黒いセダンタイプの車が走り去るのが由梨花の眼に残った。もう一人の青年が大きな声で、「死ぬな。おーい。死ぬな。」と絶叫していた。
 レジー台にあった電話で反射的に由梨花は警察に連絡して、同時に救急車を呼んでいた。とっさのことで由梨花は後刻、自分のした動作がドラマのシーンのようにしか思い浮かばなかった。5分もしないうちにパトーカー2台と救急車が駆け付けた。道路は一時封鎖され、立ち入り禁止のテープが張られた。
「店の前で事件が発生したようよ。カモメでランチセットを食べて、店を出た直後にピストルで撃たれたようよ。びっくり。もう、体が凍った。」
 由梨花はすぐに菅原慎一郎に連絡した。女だけでカモメにいることに不安を感じたからであった。暇だったのか、慎一郎は30分後に駆け付けたが、カモメに来るまでに警察の警戒線で止められ、到着に時間がかかったようであった。
 慎一郎の顔を見るなり、由梨花は力いっぱいに抱き着いて、ワ~と泣き出した。由梨花のドキドキした胸の鼓動が慎一郎に伝わってきた。
「怖かった。体が今でも震えているのが分るでしょう。」
 こう言って、由梨花は再び慎一郎を強く抱きしめた。カモメの店内には客の姿はなかった。事件に恐れをなしたのか、早々に退散していた。アルバイトの女性が見詰めている前でのことだから、慎一郎は由梨花の肩を撫でるしかなかった。彼は頭の中で今回の事件を追っかけてみる価値があると心で決意していた。




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