Nicotto Town


ごま塩ニシン


夜霧の巷(31)

  職務上の事柄を第三者に漏らすことは犯罪である。特に公務員の場合、職務上に知りえた情報を関係のない第三者に漏らしてはならない。分かっていながらも、高校の先輩後輩の関係を利用して、何かを二宮から引き出そうと期待した自分が間違っていた。二宮と別れてから菅原は深く反省するのであった。
 翌日、菅原はユーチューバーの古宮雄太から「お知らせしたいことがありますのでコーヒーショップ『カモメ』でお会いできないでしょうか。」というメールを受け取った。振り返れば、そもそも事件の発端を作ったのが彼の映像投稿からであった。この古宮から知らせたいことがあるという。手詰まり状態であった局面を打開してくれるかもしれない。菅原は「よし。」と思わず声を出して、こぶしを握り締めた。
「やあ、久しぶりです。」
 『カモメ』のドアを開けると、窓際にいた古宮が席から立って、挨拶した。古宮にとっても、青垣勇作がピストルで撃たれた事件はショックだったらしく、ユーチューブへの投稿が原因ではないかと悩んでいた。彼は自分の収録した画像を詳細に再吟味してきた。この作業をすることによって信太盛太郎が運河から転落したのは、周到に仕組まれた計画的な犯罪に当たるのではないかと推測したからであった。
「あの雨の降っていた深夜、青垣の乗った車ですが、この日、何回も運河の橋を渡っているのです。事件当日の午後から5回、確認できます。しかも、事件があった日から過去1週間分を調べてみますと、十回も通行しているのです。これ以前は一回も確認できていません。ということは、事件が発生するまでの1週間に青垣の車が集中して通過していたわけです。さらに事件後は皆無ですから、一定の期間中に何らかの意図をもって、青垣は運河を渡っていたと考えられないでしょうか。」
 古宮は何度も推理してきたのであろう。これまで感じてきた疑問を一気に吐き出したようであった。
「いやー。スゲーな。よく、まあ、根気よく、調べ上げたものだね。」
 菅原は古宮の探求心に感銘した。この男は問題点を科学的に実証している。抽象的な勘と推理で問題を嗅ぎ分けていこうとする菅原とは全然違っている。古宮は、面白半分でする映像趣味者ではないと思った。こんな男が協力者になってくれたら事件の核心に近づけるかもしれない。菅原は思わぬ援軍を得た思いであった。




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