Nicotto Town


ごま塩ニシン


夜霧の巷(42)

 産業開発ビルを出た直後であった。
「水沢営業課長に菅原さんの気持ちを伝達しておきます。思い出していただいてありがとうございました。」
 こう言って、広瀬沙織は笑顔で手を振って、AI企画センターの建物へ消えた。
「ありがとう。」
 菅原はびっくりして彼女を見送った。最後になったが、水沢営業課長がクラブ霧笛を利用していると沙織が暗示してくれた。菅原は胸がいっぱいになった。
 彼女と別れた後、レジャービルへ行って清宮水産の配送車が来るのを待っていようと考えていたが、方針を変更した。何も慌てる必要がない。水沢営業課長の行きつけの店は知っている。明日にでも、課長の予定を聞いて、待ち合わせの約束を取り付けることである。こう結論付けると、菅原は二宮刑事の父親が経営している居酒屋に夕食を兼ねて、寄ることに決めた。一人酒でも飲みながら、今後の対策として頭の整理をしておきたかった。
 カウンターの隅で生ビールに口をつけた時であった。
 菅原はポンと肩を叩かれた。
「一人酒ですか。先輩。」
 二宮が横に立っていた。
「ええ。大丈夫なの。」
 こう言って、菅原は時計を見た。
「今日は勤務明けの非番なんですよ。一人で家にいても退屈なもので。」
「君は親父さんと同居していないの。」
「当然ですよ。家も別々。しっかり独立していますよ。横の席いいですか。」
 こう言って、二宮は椅子を引いて座った。菅原にしてみれば、ここで後輩の二宮刑事が登場するとは、想像以上のラッキーな出遭いであった。二宮から聞き出したいことは山のように頭へ浮かんできた。




月別アーカイブ

2024

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2015


Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.