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ごま塩ニシン


すれ違った影の交錯(9)

 北野政頼との離婚が決まった時、明美は政頼との生活品を、ほとんど捨て去っていた。政頼の遺伝子検査をするにしても、遺骨は兄の圭太が引き取っているので、もし実施するとすれば、何らかの政頼の遺物を探し出さなければならなかった。政頼は精子検査をどこの医療機関でしたのだろうか。もし分かったとしても個人情報にかかわる分析結果を離婚した元妻に教えてくれるだろうか。無理を承知で、考え悩ん末に明美は古屋弁護士を訪ねた。
「彼の遺伝子情報を解析できる遺物といったものを僕は持ち合わせていませんよ。私は大学の後輩というだけでの友人関係でしかありませんから。何でしたら、兄の北野圭太へ問い合わせてみましょうか。ただ、先日、別れた時に言っておられたように遺言書がありますから、果たして協力してくれるかどうかですね。それに娘さんの浩美さんのことですが、明美さん自身が北野政頼との間で生まれた子供ではないと確信を持っておられるのであれば、もう、それでいいのではないでしょうか。今さら、実証する必要があるでしょうか。私が最初に申し上げたのは、遺言書という書き物だけでは親子関係の科学的な証拠にならない。言わば一般論として言ったまでです。関係者が遺言状の文言通りに、裁判官の立会いの下で確認ができているのですから、これ以上のことはなにもないわけです。納得するかどうかの問題だけなのです。」
 古屋弁護士はこれまでの状況を概観して見せた。
「そうですね。私自身の気持ちの問題だけです。北野家の財産を相続したいという要求も持っていません。」
「だったら、なおさらじゃ、ないですか。」
「はい。遺伝子検査をするにしても、困難な面がありますから。」
「強いて言えば、政頼さんの事務所でパート勤めをしていた藤木文子さんが遺品の整理をされたので、あの方に念のために確認されたらいかがでしょうか。」
 古屋弁護士のこの助言が最後となり、明美のは気分は整理できた。




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