Nicotto Town


ごま塩ニシン


すれ違った影の交錯。

  渓流沿いの窓辺から。
 大野明美は、北野政頼のことを思い出すと、眼下の渓流に過去の感情を投げ捨てた。古屋弁護士から何度も北野が残した遺書を受け取ってもらいたいという要請を受けていたが、北野の遺志を受け継ぐ気になれなかった。受け取れない理由は彼女自身の問題であった。北野との結婚生活で生まれた浩美と...

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封印された遺書(10)完。

 駅に向かって歩を進めようとした時であった。藤木文子は謎めいたことを言った。
「実は、こんなこと言っていいのかどうか迷うのですが、亡くなった北野さんの机を整理していると奥さん宛の遺書が見つかったのです。」
「遺書?遺言書ですか。」
「そうです。」
「それで。」
 君岡は藤木文子の顔を真剣に見た。彼女...

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封印された遺書(9)

「連絡頂ければ、葬儀に参列させていただいたのに残念です。」
 藤木文子は困った顔をした。
「それがね。北野さんは亡くなられる前に奥さんと離婚の手続きをされていて、奥さんに連絡したら、もう、別れた相手です。かかわりあいたくないと言って、葬儀の喪主になることを拒否されたのです。古屋弁護士が間に立たれて、...

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封印された遺書(8)

 喪中ハガキを手提げカバンに入れると、君岡はパークショップにある『よろず生活館』へ急いだ。電車の中で喪中ハガキを取り出しては何度も読み返した。不審に思う点があった。<ご愛顧賜りました『よろず生活館』ですが、館主北野政頼が十月二十五日に急逝いたしました。新年のご挨拶は失礼させていただきますとともに『よ...

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封印された遺書(7)

 一人で考えて苦しく感じることでも、他人との会話で、自分の悩み事が意外にも小さなことに思えてくることがある。君岡は北野から一般的な事例だと指摘されたことで肩の荷が下りた気になった。弟の事業の行き詰まりによる資金難は母親が父の死亡によって得た保険金と母がコツコツと蓄えてきた貯金で解決できることになった...

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