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關西紀行,其之伍:安土往還之記・・・

かつて不破の関があった江濃国境の狭隘部を抜けると米原だ。
北陸線と東海道線,新幹線が分岐する交通の要衝だが,市域の西半分は伊吹山麓になるため,降雪も多いようだ。
ところが,彦根,豊里,能登川・・・といった琵琶湖東岸の地域を通過していき,愛知川(えちがわ)を渡ると,雪がだんだん無くなっていく。
安土・近江八幡という,いずれも16世紀後半に建造され,数年で廃城となった織田氏・豊臣氏の城跡付近まで来たときは,完全に雪は消えていた・・・。


琵琶湖の舟運と,水利の良さから美田が広がる近江平野を,信長はのどから手が出るほど欲しかったのだろう。
将軍義昭を奉じての永禄4(1568)年の上洛戦の時,南近江を支配していた六角氏を鎧袖一触放逐し,妹婿である北近江の浅井長政を討つには,それ以降数年を要した。
岐阜と京を結ぶ中間地点の近江こそ,信長にとって重要であったことは間違い有るまい。なればこそ,高速艇で琵琶湖を突っ切り,京まで1日で行くことのできる安土に築城したのだろう。
目の上のたんこぶとも言うべき浅井・朝倉を屠り,本願寺宗徒も鎮静化し,ようやく畿内平定が終わった信長にとって,思い通りの城を建造したのだろう。
岐阜も清洲も,自分が造った城ではなかった故・・・。


しかし,安土城自体の命運も,長くはなかった。
信長横死から程ない,天正10(1582)年6月,謎の失火によって,天守閣が焼け落ちるのである。
これについては諸説がある。
①光秀の城代だった明智秀満が退去する際に焼いた。
②信長二男の信雄が焼いた。
③野武士や夜盗が入り込んで焼いた。
④落雷によって焼けた。
・・・といった具合である。
①は,湖水渡りをして坂本城に入り,自刃する前に,光秀所有の名刀や茶器などを包囲軍の堀秀政に渡しているところからも,安土城を焼くとは考えにくい。
完全に,光秀一族に対する濡れ衣だろう。
⑤は,父に似ず暗愚な信雄が,敵に利用されるのを避ける目的で焼いたということで,ルイス・フロイス著作にも記述があるらしい。
だとすれば,直接焼いたのではなく,明智軍を燻り出そうと,浄化に放った火が類焼したのではと思われる。
信雄にとっても,不本意な言われ方だろう。
そう考えると,本能寺の変~山﨑の戦いの混乱期に夜盗が進入した③は,信憑性がありそうだし,④も考えられなくはないが,どうだろう・・・。
 本能寺の変当時,安土城の留守を預かっていたのは,近江出身の蒲生賢秀である。
いち早く信長の妻妾を自身の日野城に逃がして事なきを得た。
子の氏郷ともども,出世の糸口となったことだろう・・・。


因みに,安土山の隣の八幡山の城(八幡山城,近江八幡城)は,安土城が廃城となった後に,豊臣(羽柴)秀次の居城として建てられた。
天正18(1590)年に,秀次が尾張清洲へ移封されると,京極高次が入るも,秀次一族の滅亡と共に,大津城へ転封。
こちらも10年足らずで廃城となったのであった・・・。


野洲川を渡ると,いよいよ湖南だ。
先に述べた京極高次の城下町大津が近づく。
東方には,俵藤太秀郷(たわらのとうたひでさと)の百足退治で有名な三上山(近江富士)が見え始める。
佐藤さん,斎藤さん,伊藤さん,遠藤さん,加藤さん等,藤のつく名字の方々の先祖であるので,これらの氏(うじ)の方々は,覚えておくと良いだろう・・・。
私は違うが・・・。


大津市内に入り,瀬田川を渡る直前の一瞬,琵琶湖が見える。
新幹線から大きく見えるのは,ここだけではないかと思われるのだが,湖水の南岸にある,この大津の町の風光は底抜けに明るい。
古来,政争に絡む相次ぐ合戦の血生臭い舞台となった地域ではあるのだが,湖を控えているせいか,そうしたことを一瞬たりとも感じさせない。
一昨年,三井寺(園城寺)から,膳所まで湖岸をまったりと歩いたことがあったが,琵琶湖には好天が似合う・・・。


大津を過ぎると,新幹線は音羽山の山頂の直下を通る。
その音羽山トンネルを抜けると,京の東口とも言うべき山科盆地だ。
先日,私の好きな「餃子の王将」チェーンの社長が射殺されたところでもある。
理不尽極まりない暴力に対して,憤りを感じると同時に,何としても京都では,王将で食事してやろうと思ったのだが・・・。
瞬く間に山科盆地を通過し,上に斎場のある今熊野の山をくぐると,三十三間堂のある蓮華王院と後白河法皇陵の南に出て,鴨川を渡る。
2年ぶりの上洛,平安千年の古都の空気が,充溢していた・・・。


・・・ということで,丁度ワープロ2ページ分キーを叩いたことにより,念願の上洛となつたところで,今日は終了。
午後は,いよいよ洛中紀行と相成る・・・。





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