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koshiのお部屋分家


關西紀行-其之壱拾九「京都へ・・・?? 」

この春,僕はまえから一種の憧れをもっていた馬酔木(あしび)の花を大和路のいたるところで見ることができた。
 そのなかでも一番印象ぶかかったのは,奈良へ著いたすぐそのあくる朝,途中の山道に咲いていた蒲公英や薺(なずな)のような花にもひとりでに目がとまって,なんとなく懐かしいような旅びとらしい気分で,二時間あまりも歩きつづけたのち,漸(や)っとたどりついた浄瑠璃寺の小さな門のかたわらに,丁度いまをさかりと咲いていた一本の馬酔木をふと見いだしたときだった。
 最初,僕たちはその何んの構えもない小さな門を寺の門だとは気づかずに危く其処を通りこしそうになった。その途端,その門の奥のほうの,一本の花ざかりの緋桃の木のうえに,突然なんだかはっとするようなもの,――ふいとそのあたりを翔け去さったこの世ならぬ美しい色をした鳥の翼のようなものが,自分の目にはいって,おやと思って、そこに足を止めた。それが浄瑠璃寺の塔の錆ついた九輪だったのである。

                           (中略)

阿弥陀堂へ僕たちを案内してくれたのは、寺僧ではなく、その娘らしい、十六七の、ジャケット姿の少女だった。
 うすぐらい堂のなかにずらりと並んでいる金色(こんじき)の九体仏を一わたり見てしまうと,こんどは一つ一つ丹念にそれを見はじめている僕をそこに残して,妻はその寺の娘とともに堂のそとに出て,陽あたりのいい縁さきで,裏庭の方かなんぞを眺めながら,こんな会話をしあっている。
「ずいぶん大きな柿の木ね。」妻の声がする。
「ほんまにええ柿の木やろ。」少女の返事はいかにも得意そうだ。

                          堀辰雄「大和路・信濃路」~浄瑠璃寺の春より,新潮文庫刊

高校1年の時,現代国語の教科書に載っていて,心に留めておいた一文です。
堀辰雄の浪漫主義文学に填ったのはもう少し後ですが,当時から旅行好きだった私の心の琴線に触れた作品でした。
以来幾星霜,一度は訪ねてみたいと思いつつも果たせずにおりました。
この「大和路・信濃路」には,斑鳩の中宮寺(法隆寺の隣)や奈良の秋篠寺等,私のお気に入りの寺が多く掲載されており,観光ガイド風読み物としても役に立つと思います。


2014年最後の日となった12月31日。
夕刻には奈良を出立して,京都から6時台の新幹線に乗るので,何処に行くか検討した結果,コストパフォーマンスに圧倒的に優れる浄瑠璃寺に決めました。
バス代は片道580円。
それを600円の1日乗車券で往復できる訳ですから,行かない手はありません。
1日目は奈良公園を中心とした古都奈良の代表的風物を見せて,2日目は日本の古代国家成立の地である飛鳥を見せるという目的は果たしたので,今度は私の行きたかったところへ行かせてくれ・・・ということで,午前中は浄瑠璃寺を往復して,午後はしかまろくんに鹿せんべいをあげることに味を占めた下の子の意見で,奈良公園へ行き,私が大仏を見せることに決まりました。
以下は,その紀行文(と言える代物かどうか・・・)となります。
文体も,敬体から平叙体に戻します。


ホテルのチェックアウトを済ませて,奈良交通の営業所でバスの1日乗車券を買う。
浄瑠璃寺へ行くバスは,JR駅の西口バスプールより出発する。
乗車客は僅か数人。
皆1日乗車券利用者だろう。
例によって,携帯の地図を開いて,首っ引きとなる。
便利な時代になったものだが,紙の地図が進行方向を向けて自在に回転できたのに対し,携帯の地図は,画面自動回転を切らないと,同じことができない。
昨年の旅行の際は,前の機種だったので1年半程使用したリチウムイオン電池が相当へたっており,半日使うと電力が1/3ぐらいに落ちたのだが(野球観戦の時なんか,最後まで保たなかった),今回はフル充電して持って歩いた補助電源を一度も使わずに済んだ。
機種変更は正解だった。
一度誤って,洗濯機の中で回転させてしまったのだが・・・。


バスは二条通とも言うべきR369を東進し,近鉄奈良駅のすぐ手前で左折し,通称やすらぎの道へ入る。
奈良育英高校を過ぎると,小高い丘を登るが,このあたりを佐保山(我が街にも同名の団地有り)とか佐保路とか言うらしい。
そしてその丘の頂点に位置するのが,陸上競技場と野球場を中心とする鴻池運動公園であり,その手前にある奈良YHには以前宿泊したことがある。
20年前のことだが,初めてバスカードというものを知ると同時に,翌年我が街でも採用となったことを思い出す。
その東側が,私が生まれて間もない頃にできた奈良ドリームランドである。
当時はディズニーランドを模したかなり本格的なテーマパーク(勿論そんな言葉は無い)
であり,幼少の私も行ってみたくてならなかった程である。
特に,モノレールという乗り物は,SF映画や冒険小説の中のもののようで,近未来的で滅法格好良く思われたものである。
奈良市の公売でも入札が無く,完全な廃墟と化しているらしいが,何とかならないものだろうか・・・。
そう言えば,我が街にも秋保温泉ドリームランドなる温泉レジャー施設が有って,小学校3年の時に遠足で行ったものだが,これはいつ無くなったのだろう・・・。
20代半ばに通ったときは既に廃墟だったし,私が学生だった頃に無くなってしまったのかも知れない。
船橋ヘルスセンターだの向ヶ丘遊園,小山遊園地に宝塚ファミリーランドだのも無いらしいし,こんなところにも世の無常というか,栄枯盛衰を感じてしまう・・・。

そして,その佐保山を越え,元明・元正両帝の御陵の間を抜けて下りになると,周囲は完全に新しい団地となり,奈良市のベッドタウンとなる。
住所は木津川市州見台。
木津川市-つまり奈良市ではなく,京都府である。
そう,本日の目的地である浄瑠璃寺の所在地は,京都府木津川市加茂町西小札場。
奈良ではなく,何と京都の寺へ向かっているのであった・・・。


・・・ということで,引用文が多いのですが,今日はここで終了です。
明日,浄瑠璃寺について書くことができると良いのですが・・・。


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